映画「ナラタージュ」が最高だった話

ナラタージュ」を観ました。

2017年の公開当時、観たくて観たくて仕方なかったんですが、「散歩する侵略者」に狂っていたのでみのがし、やっとDVDで鑑賞。

開始3分で劇場で観なかったことを激しく後悔…。

劇場で観るべきものと家でも大して変わらないものを予告の時点で見分ける能力が欲しいです。


以下ネタバレ含み感想


簡単にいうと、高校生の頃学校に馴染めなくて死にそうだったところを社会の先生「葉山先生」に救ってもらって好きになった。気持ちは伝えられないまま卒業、大学2年の初夏に再会して色々ある話。それをナラタージュ-回想形式で語られる映画。


ちなみに有村架純さんのような見た目ではないですが、高校パートは思い当たる節があってしんどかった。



まず語り手の工藤泉。すんげ〜よかった。

何がよかったって、女から見て嫌な女じゃなくてよかった。あれがもっとめんどくさいキャピキャピ女だったら安っぽい映画になってたしイライラした…。あぶね〜(?)

高校時代の見た目は普通、真面目そうな感じで、でも女の子らしくてクラスでは浮いてるけど先生とは仲良くなった。性格は割と冷めてて気の強さが所々に現れてるのもよかった。普通に応援した。


葉山先生は、奥さんがいたもののいろいろごたついて自分を責めてる悪い大人。悪いというか弱いというか、私には相当幼く見えた。

卒業式後に割とディープなちゅーかましてくるし大学時代には呼び出して家までよんで文化祭終わったら素知らぬ顔で「工藤もありがとう。」とか言って握手してくるし。なんだてめー何考えてんだこの野郎って思いましたマジで。

JKからみたらただただずるい大人。なんなのむかつく。


でもそりゃ〜弱ってるところに温かい居場所が用意されて、相手の秘密も教えてくれて、好きになるなって方がおかしい、わかる、わかるよ泉……。


泉が交際相手に言った「だって私だけが知ってるんだもん」みたいな言葉から、泉の独占欲とか先生に対する執着とか優越感とかいろいろ伝わってきて、すごい醜くて悲しくなった。思い当たる節がありすぎて。きもい。



そもそも先生は自分でも言ってたけど心の傷を泉で癒してただけというか、罪悪感みたいなのを泉に優しくすることで薄めてたようにみえる。

「それは恋じゃなかったと思う」は先生の優しさなのかと最初は思ったけど、先生は泉よりも長く生きてる大人だから案外冷静に、本心で泉への気持ちの大半が「逃げ」の一種だったって思ってたのかな。

でも一緒にいるうちに本当に泉のことが大切に思えた。自分の大切なものをあげたいくらいには。

私には二人とも似た者同士に見えた。



好きなシーンは、タクシーから恋人に見られた渡せなかった手紙を破いて捨てるシーン。

手しか映ってないのに、泉の絶望というか悲しさみたいなのがすごく出てて、美しかった。

きっと先生に読まれなかったからせめて「泉だけ」のものにしたかった先生への気持ちを彼氏に見られてしまったんだろうなあ。悲しい。なにが綴られていたのか、泉だけが知っていれば良かったのにね。


もう一つは、部活の後輩の柚子ちゃんが亡くなって、集合写真がアップになるところから。

柚子ちゃんと、柚子ちゃんと同い年だった時の泉の対比が絶望的だった。

ギリギリのところで葉山先生に出会って、救われて、寄りかかっていけた泉と、まわりにたくさん人がいたけど、葉山先生もいたけど、寄りかかれずに孤独なまま消えていった柚子ちゃん。

「わたしには、あなたでした。わたしを救ってくれたのは、あなたでした」ってそういうことかぁ、とストンと落ちた。

多分誰しもそういう、異性に限らず、ギリギリのところで心の拠り所になるような相手だったら場所があって、そのときの泉にとっては先生が全てだった。

後のシーンで「子供だったからこの人しかいないって思っただけ」っていってたけど、わたしには泉はちゃんと先生のことを一心に見つめてたように見えた。泉には、先生しかいなかったし、先生だけはいてくれた。

でも、もしかしたら先生はそれも、自分の錯覚のような甘えも自覚してたのかな。そこが、大人と子供の違いなのかな。





最後の別れのシーンからは涙涙涙無限に涙。

もう5回くらいリピってる。無理。

車内から見える、ただ立ってこっちを見つめる葉山先生の姿。

それは本当にただの男で、別にすごいスタイルが良くてきらきらしてていい男が感動的な見送りをしてるわけではなくて、きっとあの先生を他人が見たら「なんで突っ立ってんだこのおっさん」ってなるんでしょうけど、「泉に映る先生」として映ってて、胸が締め付けられた。

恋ってそういうもんですよね、と思った。

自分がそうだと思えばそうだし、理由とかわからないし、これが恋かどうかもまずわからない、みたいな。甘えも羨望も尊敬もぐっちゃぐちゃで大切で、大好きな相手。

クールな泉の感情が一気に爆発して涙するのがつらくて、ああこれが泉が見た最後の先生なのかと思うと悲しくて悲しくて。

大切で、きっとこの先一生会うことのないだろうひとの最後の姿って、どうしてあんなに悲しいんですかね。泉も、これが最後って思ったからあんなに悲しい顔したんだなぁ。


でも、本当のラストシーンにつながる会社での後輩の言葉で、すべてが救われた。

「幸せであるように」、恋ではなかったかもしれないし、それよりもっと狡くて酷いものだったんだろうけど、先生から泉に対する想いってそれがすべてだったんだろう。

それに気づいた、気づかせてもらった泉が少し笑う表情になって安心した。

きっとどこかで先生もまだ泉のことを大切に思ってるし、針を回し始めた泉は時々先生に会いたくなって、大丈夫だよって伝えたくなるのかな。



最後まで恋が叶う、いちゃいちゃすることはなかったし、永遠の愛を誓うこともない暗くて重い映画だったけど、とにかくリアル。

こういう恋って、大なり小なりみんなが経験しているような。好きだけど応えてもらえない、応えられない。一生会えないけど、恋じゃないけど、心の底から大切で、一生忘れない。見終わった時に会えないけど本当に一番好きな人のことを思い出した。

会いに行きたいけど、行ったところでなにかあるわけでもないだろう。



ひとつ、葉山先生の気持ちの動きが少しわかりづらかったような気もしたけれど、これは「泉のナラタージュ」だから。

葉山先生には葉山先生のナラタージュが、小野くんに小野くんのそれがあるんだよね。

きっとみんなたまに昔のことをナラタージュとして思い出して、また変わらない日々を過ごしているんだな、と思ったら、過去に執着してる自分を許せるような気持ちになった。




主題歌「ナラタージュ」が、素敵だった。


あなたが歌ってた夏のあの歌の名前をついには知らないまま


あなたをちゃんと思い出に出来たよ


いつか不意に振り返った時も その眼がなんて言ったかわからないくらい

はるか遠くにいるでしょう


それでもどうか笑ってて


あなたが歌ってた夏のあの歌の名前は知らないままでいるね